オンラインゲーム 人間の必要をある程度満たしてしまう

幻に囚われる

アメリカの心理学者、アブラハム・マズローは「人間は自己実現に向かって絶えず成長する生きものである」と仮定し、人間の欲求を5段階の階層で理論化しました。

これは、「自己実現理論」もしくは、「マズローの欲求段階説」と呼ばれています。その5つの根本的な欲求とは次のようなものです。

1.生理的欲求

2.安全の欲求

3.所属と愛の欲求

4.承認(尊重)の欲求

5.自己実現の欲求

このマズローの自己実現理論、人間の根本的な必要がインターネットゲームである程度満たされてしまいます。それぞれどのように関係しているのか、見てゆきましょう。

生理的欲求

生理的欲求は基本的に生きるために最低限必要なもので、呼吸や、飲食、睡眠、排泄などがあります。この「生理的欲求」を精神面という少し違う観点から見ればどうでしょうか。

人間は誰しも幸せでありたいと思い、喜びとなることや、楽しいことを求める本来の生理的な欲求があります。

インターネットゲーム依存症 麻薬と同じ」のページでも述べましたが、ゲームを50分間したときに脳で放出されるドーパミンの量は、覚せい剤使用時のドーパミン放出量に匹敵します。

オンラインゲームをしていると、「脳が楽しい」と感じるわけです。そして、その時は嫌なことも忘れていられます。このように、オンラインゲームは精神的な生理的欲求をある程度満たしてくれます。

安全の欲求

インターネット・ゲーム依存症に陥る人の多くは、現実世界に安心感を感じにくく、ネットやゲームの世界に避難してきている状態です。

所属や愛の欲求、承認欲求とも関係していますが、現実世界では、歓迎され、必要とされ、賞賛されるといったことはほとんどありません。

文句や悪口や嫌味を言われたり、叱られたり、いじめられたり、仲間外れにされたりと、決して安全とは言えない状況があるかもしれないのです。

身体的な安全は気にしなくてもいいかもしれませんが、精神的な安心という点でネットの世界は現実より安心できます。だれでも傷つけられたくはないものです。

所属と愛の欲求・承認の欲求

オンラインゲームにいつものようにログインすると、そこには仲間がいます。自分が所属できるところがあり、受け入れられ、歓迎され、必要とされます。ゲーム内で活躍できれば、賞賛もされます。

ゲームのチャットやスカイプなどで他のユーザーと交流することもできます。決して孤独ではありません。こうしたことから私たちはほとんど無意識のうちに「愛され感」を受け、居心地良く感じます。

誰からも認められないと元気がなくなります。どんな虫たちも、光のある暖かいところに集まるのです。

自己実現の欲求

現実世界では夢、やりたいこと、成し遂げたいことがないかもしれません。もしかしたら、失敗や挫折によって、目標を見失ったかもしれません。

マズローによると、より高次元の欲求として、「自己実現の欲求」つまり、目標や目的のために進み、それを実現させることによってより大きくなった自分自身への欲求があります。

今よりも成長したい、進歩したい、上手になりたい、かっこ良く、きれいになりたい、といった欲求です。オンラインゲームとこの欲求はどのような関係があるでしょうか。

ゲーム内では、シナリオが進んでゆくにつれてクエストが来たり、敵やボスが出現したり、自分のキャラが成長したりします。もしかしたら、魅力的な相手と結婚できるかもしれません。

ゲームプレイの上達、クエスト完了やクリアなどによる達成感などは満足をもたらします。また、アバター(分身)の利用により、より完璧で魅力的な人物像へ乗り移ることもできます。自己実現が現実世界より簡単に手に入るのです。

現実世界より良い

ここで挙げたようなことはゲーム外の世界ではあり得ないか、あってもゲームで体感できるほどではありません。

現実が自分にゲームで感じる以上の「欲求の実現」をもたらしてくれるのであれば、ゲームよりも楽しい現実で過ごすはずです。

現実世界において安全の欲求や、所属や承認の欲求、自己実現の欲求が満たされない人ほど依存に陥りやすくなるのは理解できることです。ただ、大きな問題が残ります。

残念ながら、このようにしてゲームで得られる満足は、どれ一つとして本来の満足ではなく、幻の一時的な満足にすぎないものです。そこで得られる安心も社会的な満足も、自己実現も現実世界の満足にはつながりません。

ゲーム内での連帯感はゲームの魅力であると同時に、グループを抜けてしまうと皆に迷惑をかけることになり、抜けられないように縛り合うしくみとなっています。

また、ゲーム運営側は、より多くの人にプレイしてもらい、注目され、話題となり、課金してもらうことが目的なので、一度自分たちのゲームの世界に入ってきたプレイヤーを逃したくありません。

そのため、もともと出口が作られていません。オンラインゲームの中で幻の欲求を実現させる人々は、出口のないゲームにより、そこに閉じ込められてしまうのです。これが人間の必要をある程度満たしてしまうネトゲ依存なのです。