悲観というレンズの入ったメガネで世界を見る

悩み悲しみ

レンズが黄色いメガネをかけると、当然目に映るものすべてが黄色く見えます。そのメガネをかけ始めた時は違和感がありますが、徐々に慣れてきます。不思議なことにそれに慣れてしまうと、今度は黄色く見えない世界のほうに違和感を感じるようになります。

悲観というレンズ

アメリカの精神科医アーロン・ベックは、うつ病の患者を治療する中で、彼らが実際以上に物事を悲観的に見ていることに気づきました。彼らがまるで、「悲観」という色のついたレンズを通して見ているかのようだったのです。

自分の目に映る世界すべてを「悲観」というレンズを通して見るため、その消極的な考え方が、自分自身に対するものだけでなく、周囲の人や世界や未来といったものにまで及んでいました。

ベック医師は、この過度に悲観的な見方が彼らを苦しめている原因なのではないかと考えるようになります。

認知療法誕生へ

患者一人一人と検討を重ねていくと、患者は自分の考えが事実に反していることを認めざるを得なくなり、過度にマイナス面ばかりに注意を奪われていたことを自覚するようになります。自覚ができてゆくと、自然にうつ病の症状にも改善がみられるようになりました。

心の病の原因には先天的・遺伝的なものもありますが、こうした受け止め方や思い込みの要素も決して小さくはないことが少しずつ明らかになってきたのです。

こうしてアーロン・ベック医師と患者との関わりの中で、今日「認知療法」として知られる治療法が編み出されることになったのです。

刺激→認知→反応

私たち人間は、外からの様々な刺激に対して、一度自分の内で認知処理を行ない、感情や言葉、行動として反応を出力します。

同じ刺激を受けても人によって反応が異なるのは、それぞれが自らの内で行なう認知処理に違いがあるためです。

その認知がバランスの良い、柔軟なものであれば物事にうまく反応し、割りと楽しく充実した生活を送ることができます。そうでない場合、摩擦が生じやすくなり、いろいろな物事に上手に適応できない結果となります。

自覚しにくい

問題なのは、認知がほとんど意識しないうちに自動的に行われるので、気づきにくいことです。

当人にとっては、それは「常識」であり、「当たり前」なのです。なんでもマイナスに捉えてしまう認知に加え、思い込みがさらに変化を難しいものにします。わかりやすい思い込みの例として「自分は何をやっても失敗する」、「自分は取り柄がないので、誰からも愛されない」といったものがあります。

こうした思い込みやマイナス思考は長い年月を通して培ったものなので、それを修正しようとすると強い抵抗に遭いやすくなります。他の人から指摘されても、認めにくいものなのです。

特に、認知の歪みが強い人ほど、指摘されても自分の歪みを認めようとしなかったり、問題を自分ではなく、周囲の人のせいにしたりしがちです。

自分の認知を知る

人は完全ではありませんから、誰でもある程度の認知の歪みはあります。それが実生活に差し支えのない程度で、周囲に迷惑をかけることなく、当人が楽しく毎日を過ごせているのであれば問題ありません。

しかし、認知の歪みが強く、「どうして自分はこうなのだろう」と悲嘆や悩みが多いなら、上手に適応できていないのかもしれません。

適応を改善してゆくうえで、偏った認知や思い込みを自覚してそれを修正していくという作業は不可欠な要素となっています。自分自身の認知がどのようなものか、静かに考えてみたり、周囲の人に尋ねてみるのは新しい発見となるかもしれません。