高齢者のうつ病

高齢者の不調

高齢になってくると若いころのように元気いっぱいというわけにはゆきません。退職したり子育ても終了し、時間的な余裕も今まで以上にあるかもしれません。積極的に物事を考える時間が多くある反面、消極的なことを考えてしまう時間も多くあるのです。

環境の変化に伴い、高齢者でも抑うつ的になることがあります。特にこの時期に発症するうつ病は治りにくく、知らないうちに小さい脳梗塞などの脳の器質異常が存在しているとその傾向は強まります。

高齢者がうつ病を発症すると、他に抱えている病気と合わせて身体機能の低下を招くほか、自殺の危険性も高くなるので診断や治療に積極的に取り組んでゆきたいところです。

高齢者がうつ病になると、そうでない場合より死亡率が高くなるといわれています。これは、自殺もありますが、おそらく、うつ病や他の病気のつらさ、うつ病の行動低下が招く生活の質の劣化、免疫機能や内分泌機能の低下、服薬の影響など、様々な要因が絡んでいると思われます。

原因

高齢者がうつ病を発症する原因にはどのようなものがあるのでしょうか。

脳の器質異常のほか、自分自身がもっている他の病気が重症であればあるほど、うつ病を発症しやすくなります。また、身体的な痛みが存在する場合や、行動が不自由になって機能障害があるとき、落ち込みが増しやすく、抑うつ感が強まります。

高齢ということで、親しい友人や伴侶を亡くす「喪失体験」がきっかけになることや、過去に精神疾患を経験したことがある人、女性でホルモンバランスの崩れの影響を強く受ける人、また、社会的な環境に恵まれないなど、落胆の原因がある人にはうつ病が忍びよりやすくなります。

特徴

高齢者のうつ病の特徴にはどのようなものがあるのでしょうか。

高齢者のうつ病では、他の年齢層のうつ病とは違い、抑うつ気分はあまり目立ちませんが、興味の喪失がよく観察されます。物事を極端に悲観的に考えるようになるのも特徴のひとつです。

ほかには、睡眠障害や、強い焦燥感、疲れやすさ、食欲低下、身体の痛みなどがあります。

身体的な痛みとなって現れる場合、本人も身体の痛みのほうを訴えるので、周囲はまさかうつ病があるとは思わず、見過ごされてしまうことがよくあります。

認知症とよく似た症状が出ることもある

高齢者のうつ病では、認知症とよく似た症状が出て、認知症だと間違えることがあります。

その症状は、自分のいる場所がどこかわからなくなったり、日時が思い出せなくなったり、物忘れがひどくなるなどです。

本当の認知症であれば、症状を抑えることはできても改善や完治の方向へ向かうことは現在のところ困難です。しかし、うつ病を原因とする物忘れは、抗うつ薬などによりうつ病の改善に伴い、症状が快方へ向かうのが特徴です。

本物の認知症と区別するという意味で、「仮性認知症」、「偽認知症」などと呼ばれています。

本物の認知症の場合、自分自身が「忘れている」ということさえ忘れてしまいます。ですから、物忘れがひどくなっても本人は気にしません。しかし、このうつ病が原因の偽認知症は、自分自身の記憶力の低下を自覚できます。それゆえ、悩んだり、さらに落ち込んだり、危機感を抱いたりします。

こうした認知症によく似た症状がうつ病に伴って現れる場合、現実に認知症が始まっていたり、後から認知症が出てくるケースがあるので注意しなければなりません。

見過ごされることが多い

高齢者がうつ病を発症した場合、身体症状になって現れることが多いため、周囲の人が気づきにくいという盲点があります。

自分自身もうつ病とは思わず、日常のかかりつけの医者や内科・整形外科などの精神科以外の診療科を受診する場合がほとんどです。

医師に診てもらう時、身体の不調を訴えても、気持ちが沈んでいることや不安が強くなっていること、自殺の考えが頭をよぎることなどを口にすることはほとんどありません。

発見が遅れるのは他の年齢層でもよくあることですが、高齢者の場合は特に老化に伴う機能低下と思われ、うつ病の発見がより遅れやすいようです。

高齢者のうつ病というこうした状況を考えるとき、日本全体が高齢化社会へと進んでいく中、うつ病を精神科や心療内科だけのものと捉えず、医療全体で考慮に入れ、取り組まなければならない重大な課題になってきているといえます。