愛着障害の克服 過去との和解

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愛着障害の克服のためには、慢性的に不足している愛情を十分に注いでくれる安全基地(親や親代わりのような存在)の確保が大切です。

愛着を抱く存在との触れ合いの中で、信頼や愛情を取り戻すことにより愛着障害から回復することができます。

しかし、そのためには安全基地の存在とは別にもうひとつ必要な要素があります。それは、過去の愛着の傷と向かい合い、きちんと言葉にして語ることです。

子供の頃の傷ついた体験はいつしか心の隅に追いやられ、はっきりと言語化されないまま、もやもやとした記憶となって残っています。

それが何の影響も及ぼさないなら問題ないのですが、そうした記憶はその人の心や行動を無意識レベルで支配し、ネガティブな言動や感情の浮き沈み、解離といったことの引き金となります。

やっかいなのは、本人に気づかない無意識レベルで影響を及ぼしているというところです。ネガティブな言動や感情の激しい浮き沈みといったことは表面に出てくるのではっきりとわかるのですが、その原因がとてもつかみにくいのです。

そのため、まずは沈静化しているそれら「心の傷の記憶」を再び活性化しなければなりません。

嫌な記憶との対面

そのような記憶を思い出そうとしても、最初はほとんど、もしくは断片的にしか思い出せないかもしれません。また、一度も言語化された過去がないために、すぐには言葉にならないことも多いです。

加えて、それは決して楽しい記憶ではなく、悲しみや怒りや寂しさといった傷ついた感情を伴う記憶でもあるので、思い出すのに多くのエネルギーを使います。

わたしたち人間は外傷を負ったとき、傷口では膿がたまることがあります。きちんと傷が治るためには、たまった膿は外へ出してやらなければなりません。

心のなかに眠る嫌な記憶も長年そこにある膿のようなもので、外へ出してやる必要があります。その記憶を一緒に存在するネガティブな情動とともに吐き出す必要があるのです。

消極的な反応

この作業を行うと、最初のうち本人は、「特に何とも思っていない」、「気にしていない」といったような反応で、問題そのものを否定する場合があります。

その段階を超えると次は、否定的・消極的な感情ばかりが語られる段階に入ります。傷が深ければ深いほど、また、傷つけられた時間が長ければ長いほどこの期間は長期化します。

具体的にどのくらいの期間かということは一概に言えず、個人差があります。執拗なまでにマイナス感情が語られるので、聞く側は大いに試されるかもしれません。

しかし、傷が癒えるためには膿をきちんと外へ出さねばなりません。外へ出さないうちはいつまでも本人の内にあって、苦しみを与え続ける要因となります。

心の痛みを伴いますが、この否定的な感情が語られることは愛着障害が癒えるために必要なことなのです。

受け止める器の大きさ

こういう流れですから、聞く側には否定的なことを一切言わず、丸ごと受け止める器の大きさが求められます。

愛着の障害を抱える本人と向き合うのは親かもしれませんし、恋人や配偶者、かかりつけの医師かもしれません。ネガティブな感情を否定せずに聞いてあげることは決してたやすいことではありません。

聞く側の人が安定していない場合、患者本人にたまっている膿のようなネガティブな記憶や感情がうまく外に出てゆきません。

聞いてもらう人を間違えると、症状は悪化し、うつ病や心身症といった他の精神疾患へ発展してゆくことさえあるのです。

医師を含め、周囲にまだ受け止めてくれるような人がいない場合、誰でもよいというわけではないので、無理に聞いてもらわないほうがよいでしょう。

親への怒りは許しへ

過去の傷と向かい合う苦痛を伴う作業が進行してゆくと、ある時期から変化が見られるようになります。

今まで、否定的でマイナスのことばかり語っていたのに、それが出尽くしたのか、それら消極的な事柄を語るのをやめます。

その代わりに、楽しかった思い出や、自分のために親がしてくれた事柄など、良い面が語られるようになります。この段階に至ると脱愛着障害はかなり近づいていると思われます。

親を愛し、求めていたからこそ、憎む気持ちが生まれていたのだということを受け入れられるようになるのです。怒りが許しへと変化し、親を受け入れることができるようになります。

親に育ててくれたことを感謝したり、今まで傷つけてしまったことを謝ったりして和解へ至ることも多くあります。

自分・過去との和解

この段階に至ると親のことを許して受け入れることができるようになるだけでなく、自然と自分自身ともいわば和解することができるようになります。

親に対して否定的な見方や感情を持っていることは、親が自分に対して否定的だったことの反映であり、それは自ら自分を否定するということに結びついています。

その親への否定的な見方がなくなった今、自分自身を受け入れ、今までなかった自信を持つことができるようになるのです。

このように、過去の傷を思い出し、それに真摯に向かい合い、きちんと誰かに受け止めてもらう一連の作業はとても大切です。

それは、親との、自分との、過去との和解であり、愛着障害に別れを告げるために必要なステップなのです。